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 第五回 モーセからヨシュアへ   新しい世代

■ 炎の蛇…「モーセが荒れ野で蛇を上げたように、人の子も上げられねばならない。」(ヨハネ3章14節)。これは十字架上の死を暗示するイエスの言葉である。「モーセが荒れ野で蛇を上げた」とは、不平を言いつづける民に神が「炎の蛇」を送ったという故事のことである。モーセは民のために神に祈り、神の指示で「青銅の蛇」を作って旗竿の先にかかげ、この蛇を見た者が救われるようにはからった(民数記21章4〜9節)。前表としての「旗竿の蛇」と十字架を仰ぎ見る者にもたらされる救いというテーマは、芸術作品に霊感を与えている。

ネボ山(ヨルダン)頂の十字架

■ ネボ山(ジェベル・エン・ネバ)…現ヨルダン王国、死海北端から東9キロに位置する標高802メートルの山。アバリム山系に属する。モーセ終焉の地とされ、山頂には記念聖堂とともにイエスの十字架に巻かれた青銅の蛇を表現したオブジェがある。エジプトを発ってから早い時期に、民はこの山系まで達し、さらにヨルダン川東部、モアブの野にも宿営している。モーセはエジプト以来の道程を記録し、神からヨルダン川を越える際の心構えについて指示を受けている(民数記33章)。

■ モーセの死…「イスラエルには、再びモーセのような預言者は現れなかった。」(申命記34章10節)という。しかしモーセは約束の地に入ることを許されなかった。その理由はメリバでの出来事にあるとされている(民数記20章11〜12節、27章14節、講座A参照)。モーセは神に願ったが、聞き入れられなかった(申命記3章23〜26節)。こうして、モーセははるかに約束の地を展望した後その生涯を終える。一方、神への信頼よりもエジプトへの憧れを口にする民、すなわちエジプト時代の生活を知っているかたくなな大人の世代も約束の地に入ることはできなかった(ヨシュア記5章6節)。約束の地に入ることができたのはヨシュアとカレブを除いて皆新しい世代であった(民数記32章11〜12節)。

■ モーセの昇天…「主は、モーセをベト・ペオルの近くのモアブの地にある谷に葬られたが、今日に至るまで、だれも彼が葬られた場所を知らない。」(申命記34章6節)という記述から、モーセは死後神によって昇天したという伝説が生まれた。美術的な題材には、「モーセの遺体をめぐって争う悪魔と大天使ミカエル」として取り上げられている。本来地上に残るはずの遺体をミカエルが天に運ぼうとするので、悪魔が抗議しているのである。

■ 後継者ヨシュア…ヨシュアは約束の地を偵察した12人の一人で、神によってモーセの後継者に指名された(申命記3章28節、民数記27章12〜23節)。モーセは使命を終えるにあたって民とヨシュアを力づけ、励ましている(申命記31章1〜8節)。エジプト以来の指導者であったモーセ亡き後、約束の地を目前にして、ヨシュアが後継者として立つ。「ヌンの子ヨシュアは知恵の霊に満ちていた。モーセが彼の上に手を置いたからである。イスラエルの人々は彼に聞き従い、主がモーセに命じられたとおり行った。」(申命記34章9節)。新しい指導者のもとに、民はヨルダン川を渡ってゆくことになる。モーセの言葉「恐れてはならない。あなたの神、主があなたとともにおられる」とは、聖書を一貫する思想でもある。

■ 120歳…「モーセは死んだとき百二十歳であったが、目はかすまず、活力もうせてはいなかった。」(申命記34章7節)ということで、イスラエルでは「120歳まで御元気で!」という挨拶のことばがあるとか。